2026年の中国AI・テック躍進:米中競争の構造と日本が取るべき戦略

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2025年は中国がAI分野で大きく優位に立つ印象を強く受けた年になりました。電力コストの安さ、データセンター建設コストの低さ、豊富なAIエンジニア、そして米国の制裁が促したイノベーションにより、中国は安くて使えるAIの実用化でリードしています。

中国のAIが勝つとされる4つの理由

アリババグループのトップであるジョセフ氏が挙げた、中国がAI競争で優位に立つ4つの理由があります。

1. 電力コストの優位性
中国の電力コストはアメリカよりも安く、AI開発における大量の電力消費において大きなアドバンテージとなっています。HUAWEI製AIチップはNVIDIA製チップと比較して電力消費が3倍かかりますが、中国では電力が余っているため勝負になると推定されます。さらに、中国政府が国産チップでAI開発を行う企業に対し、電気代の50%を補助する可能性があるというリーク情報もあります。

2. データセンター建設コストの割安さ
不動産バブル崩壊により建設コストが上昇していないため、中国はデータセンターの建設コストが劇的に安くなっています。データセンターは内モンゴルや内陸部など、風力・水力発電が豊富で土地が安価な8カ所に集中的に配置されています。太陽光発電コストは石炭発電コストの約5分の1にまで低下しており、太陽光パネルの過剰生産という初期の課題が、結果的にAIトレーニングにおいてデータセンターコスト面で非常に有利な構造を生み出しました。

3. エンジニアボーナス(人材の厚さ)
AI関連エンジニアの50%が中国人であると言われており、OpenAIのXAI創業メンバーやMetaのAIトップ人材引き抜きにおいても、中国人トップ人材が多く関わっています。中国国内でもAIエンジニアは高給取りであり、シャオミのLLMトップはDeepSeekから約10億円で引き抜かれたと推定されています。

4. AI利用コストの安さと米国の制裁の影響
中国のAI利用料(API利用量)は、最終モデルと比較して1/10程度と非常に安くなっています。米国の半導体制裁により、少ない半導体でAIをトレーニング・稼働させる必要が生じた結果、安価なAI開発・運用が実現しました。米国の制裁が、結果的にDeepSeekなどの安くて使えるAIを生み出すイノベーションにつながりました。

中国の貿易とテックの継続的躍進

研究開発への大規模投資

トランプ大統領の総合関税とは無関係に貿易は伸び続けており、その背景には研究開発(R&D)への投資があります。過去20年間でR&D経費が約15倍に増加し、約700万~800万人の研究開発員がおり、これはアメリカの約4倍に相当します。

以前は応用開発に注力し基礎研究には消極的でしたが、現在では基礎研究への投資も増加しており、10年~20年後にはノーベル賞ラッシュが確実視されています。トップ人材だけでなく、エリート層だけでは手が回らない分野において、人の多さが強みとなり、中国がその分野をリードしていくと見られています。

LLM開発とプロダクト開発における強みの違い

LLMの最も優れた技術開発においては、アメリカが中国を圧倒的にリードしています。しかし、LLMを組み合わせて面白いプロダクトを創出する分野においては、アメリカは人材不足のため、中国の強み(人の多さ)が発揮されると推定されます。

テック分野における具体的な躍進事例

バイオ製薬分野の台頭

2025年の中国テックにおける目玉の話題はバイオ製薬の強さでした。世界の製薬企業が中国のIP(知的財産)を活用し、中国の技術で新薬を開発するフェーズに入り、バイオ製薬分野は中国国内で「第二のDeepSeek」と称されるほど成長しています。

成長要因として、バイオ製薬はノウハウが確立途上の分野であり、横一線でスタートする際に中国が一気に力を入れ、人材を投入したことが挙げられます。トップ層は他国籍企業で活躍した経験を持ち、スタッフは国内に多数存在します。また、中国国内でバイオ製薬への投資に関するコンセンサスが取れており、香港証券取引所では赤字企業でも上場可能となる規約改定が行われました。

ロボット産業の進化と無人薬局の実現

人型ロボット企業「ガルボット」は、北京でロボットの頭脳(AI)を研究し、深圳でロボットの体(フィジカル)を製造する体制をとっています。創業者は北京大学の教授であり、スタンフォード大学を卒業後、アメリカ時代からロボット研究の第一人者です。

創業者が起業したスタートアップは、シリーズA段階で約3000億円の資金調達を行っており、現在、中国の大学教授が持つスタートアップは概ね高額な資金を得ている状況です。昔の中国インターネット企業がアイデア先行で技術力に欠ける「山師的企業」であったのに対し、最近は大学で博士号を持つ人材が創業するのが一般的になっています。

創業者の見解では、カフェで接客するようなロボットは「パフォーマンスロボット」であり、真の勝負はロボットが自律的に考え動く、すなわちフィジカルAIの実現にあります。フィジカルAIの実現にはあと10年程度かかる可能性があるとされていますが、10年を待たずに資金を維持するため、24時間無人薬局を既に北京で複数店舗展開し、実現しています。

この薬局は基本的にフードデリバリーライダー専用であり、ロボットが薬を受け渡し、さらに家まで配送する仕組みをとっています。2026年にはこのロボット技術が日本にも上陸する予定です。

ロボット価格のデフレと戦略的産業

家庭で利用されるロボットの盛り上がりが、中間部品メーカーの参入を促し、部品価格の低下につながっています。人型ロボットの価格デフレが既に発生しており、中国の進化の勢いを支えています。

中国政府はAI、一体型ロボット、ブレインマシンインターフェース、商用宇宙などを戦略的進行産業/未来産業として位置づけています。中国が注力する技術の多くはイーロン・マスク氏が手掛けているものと重複しており、中国は「小番ザメ戦略」を採用していると見られています。これは、イーロン・マスク氏が「いける」と判断した分野に対し、中国が人の多さと安さで追いかける戦略です。

ブレインマシンインターフェースへの投資も加速しており、臨床試験も進めている段階です。商用宇宙では低軌道衛星通信衛星の開発も進めており、来年か再来年には中国の衛星で日本を含む地域がインターネット接続可能になる可能性があります。

米中AI開発の方向性の違い

Perplexity創業者Aravind Srinivas氏の分析によると、米中は異なる方向を追求しています。アメリカはAGI(汎用人工知能)の追求に注力している一方、中国は産業無人化や実際に使える付加価値の追求、すなわち社会実装の面でリードしています。中国企業は、既存技術ですぐに価値を生み出すことにフォーカスしており、実用的なものを作る意味では既にリードしている可能性があります。

実装重視のAIと日本が取るべき連携戦略

中国における実用的なAIアプリケーションの事例

新しいモデルに対するワクワク感は薄れ、ユースケースが重要になっています。ByteDanceが発表したスマホ操作AIは、PCブラウザ操作AIのスマホ版であり、非常に注目されています。デモでは、ユーザーが「荷物持っているからトランクを開けて」と指示すると、AIが自動でテスラのアプリを操作してトランクを開ける、あるいはGoogleマップでレストランに「いいね」をつけるといった動作が実演されました。

モバイルインターネットが非常に発達した中国において、AIがスマホ操作を代行することはとてつもない価値を生むため、各社が搭載に向けて競争しています。このアプリは作り込まれており、OpenAIのモデルより性能は一段階落ちるものの、実用的なプロダクトとして優れています。

特化型AI(バーティカルAI)も注目されています。リモートドクターAIは、テキストやビデオメッセージで健康相談に応じ、健康診断結果や患部の写真に基づきアドバイスし、近くの病院予約まで行います。また、筋トレにおいて、動作認識でアドバイスをくれるガジェットが、LLMと結合され、ハードウェアとAIを融合させたアイテムとしてKickstarterでクラウドファンディングされています。このようなハードウェアとAIを融合させた面白いアイテムは、アメリカでは高コストになるため中国からしか出てこないと推定されます。

中国AIの対外展開と日本の役割

中国のAIは国内市場だけでなく、国外で売れるかが重要です。中国国内ではOpenAIなどが利用できないため、開発者は国内向けか世界向けかを選択する必要があり、現在、世界市場を選ぶ開発者が急増しています。

文字起こしアプリ創業者の話では、世界1500万ユーザーのうち日本が3割を占めますが、売上の7割が日本です。日本はAIサービスに対して真面目にお金を払ってくれる地域国であり、日本人向けにカスタマイズする意識が開発者側にあります。

米中日のAI開発は三段階構造になる可能性が高く、AGIの最高モデルはアメリカが作り、それを実装で中国が活用し、中国が作ったものを他国が応用して世界で売る、という構造です。複数のAIを組み合わせて自律的に作業するAIエージェント(例:Manas)も、中国系創業者がアメリカのLLMを組み合わせて作っているケースが多くなっています。

日本の企業家が取るべき戦略

日本の企業家は、LLMの基礎研究や実装競争で米中と戦うのは厳しく、アイデアと実装で勝負すべきです。中国のAIエージェント開発企業でも少人数(20~30人)で価値あるプロダクトを作れており、人間の数や手数で勝負する分野においては、日本にもまだ勝機があります。

中国経済の「日本化」と対外貿易の激化

中国経済が日本のバブル崩壊後の「失われた30年」のようなデフレ経済に陥るかどうかが懸念されています。中国は一党独裁体制であり、金融機関を厳しく守り、連鎖倒産は起こりにくいと見られていますが、2025年に打たれた巨大経済対策が効果を発揮せず、金融機関の連鎖倒産以外の形で日本化(デフレ経済)が近づいている印象があります。

国内市場がデフレ化し売れなくなると、製造力のある中国は貿易拡大に走ります。アメリカに対する貿易は2018年がピークであり、中国は当時、迂回輸出(ベトナム、メキシコ経由)やEU、日本、東南アジアへの輸出を拡大することで、アメリカ以外の国々にも貿易赤字を積み増させました。

中国は重要な技術や製品を自前で作る「自立」を掲げており、他国が中国に売れるものが減少しています。日本は製造業と双方向性があり、中国の製造業の成長が電子部品や製造機械の輸出につながるため、比較的潤っていますが、EUなどは中国に物が売れなくなっているのに、中国からの輸入が増えるというシビアな状況に直面しています。

中国のハイテク投資の強さは、不動産不況と関連しています。不動産投資への融資が減少した分が、グリーン投資(EV、太陽光パネル、風力発電機)に流れ込み、EUの貿易赤字につながる構造になっています。

日本が取るべき連携スタンス

この構造は限界に近づいており、2025年にアメリカが貿易路に対して戦いを繰り広げた結果、2026年にはヨーロッパや日本が中国の状況に反発し、行動を起こすことが予想されます。フランスのマクロン大統領の中国訪問でも、EVやバッテリー輸入規制に関する話題が中心でした。欧州が規制をかける場合、中国の反発は日本に向けられた制裁以上にシビアな経済制裁や関税と結びつく可能性があります。

中国は多くの国と喧嘩したくないですが、アメリカとの貿易対立が一段落したため、次は対立国を黙らせることが優先順位として高まっています。アメリカが頼りにならない状況下で、日本は他の国と連携するしかありません。

中国との対立は順番に各国に回ってくる構造であるため、自国に順番が回ってくるのを待つのではなく、中国に対し貿易不均衡の是正を伝えることが必要です。ヨーロッパとの連携が大きな課題となります。ヨーロッパは中国と距離があり、これまで中国問題で協調してくれませんでしたが、明日は我が身と考える可能性があります。

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