日本円ステーブルコインはどこへ向かうのか:JPYC・JPYSC・EJPY・Progmat Coinを制度と用途で読み解く(2026年5月版)

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本記事は2026年5月24日時点の公開情報に基づく整理です。暗号資産・電子決済手段の利用や投資を推奨するものではありません。

Zennに公開された「日本円ステーブルコイン4種を整理した──JPYC・JPYSC・EJPY・Progmat Coin、結局どう違うのか」は、2026年に一気に見え始めた日本円ステーブルコインの全体像を、JPYC・JPYSC・EJPY・Progmat Coinの4つに分けて整理した良記事でした。

この記事では、その整理を土台にしつつ、記事公開後に出たJPYCの追加情報、金融庁の2026年6月施行予定の制度改正、DCJPYのようなトークン化預金との違いまで含めて、もう一段深く見ていきます。

先に結論

  • 日本円ステーブルコインは、当面「個人・Web3向けのJPYC」と「企業・金融機関向けの信託型」に分かれて進みそうです。
  • 最大の分かれ目は、技術よりも法的スキームです。JPYCは資金移動業型、JPYSC・EJPY・Progmat Coin系は信託型です。
  • 信託型は大口決済に向きますが、実際に勝つには発行できることだけでなく、販売・償還・会計・KYC/AML・既存金融との接続が必要です。
  • 2026年5月時点で実際に流通実績がある日本円ステーブルコインはJPYCが先行しています。一方、SBI系のJPYSC、Japan Open Chain系のEJPY、メガバンク・Progmat系の共同発行構想が企業決済領域で追いかけています。
  • DCJPYは混同されがちですが、ステーブルコインではなく「銀行預金をトークン化したもの」です。法的な土台も、想定される利用場所も異なります。

日本のステーブルコイン制度の基本

日本では、2023年6月施行の改正資金決済法によって、法定通貨に価値が連動するデジタルマネー型のステーブルコインが「電子決済手段」として制度化されました。暗号資産とは別の法的カテゴリーです。

実務上、今の日本円ステーブルコインを見るうえで重要なのは、主に次の2類型です。

類型 主な法的イメージ 発行主体 向いている用途
資金移動業型 1号電子決済手段 資金移動業者 個人利用、少額決済、Web3アプリ連携
信託型 3号電子決済手段、特定信託受益権 信託会社・信託銀行など 企業間決済、大口送金、トークン化資産決済

資金移動業型は比較的スタートアップが参入しやすく、ウォレットやアプリとの相性が良い一方、発行・償還や送金額の設計に上限制約が出やすい。信託型は大口決済に向きますが、信託銀行、取扱業者、AML/CFT、利用者保護などの体制構築が重くなります。

4つの日本円ステーブルコインを比較する

名称 スキーム・関係者 2026年5月時点の状況 主戦場 見るべきポイント
JPYC JPYC株式会社による資金移動業型 2025年10月に正式発行。Avalanche、Ethereum、Polygon、Kaiaで発行 個人、Web3、少額決済、アプリ連携 流通量、対応チェーン、加盟店・アプリ導入、発行・償還UX
JPYSC SBIホールディングスとStartale Group。新生信託銀行が発行する信託型を想定 2026年2月にブランド発表。正式ローンチは2026年第2四半期目標、規制対応完了が前提 企業決済、機関投資家、トークン化資産、クロスボーダー SBI VCトレードの流通導線、対応チェーン、企業採用
EJPY 日本ブロックチェーン基盤株式会社。Japan Open Chainを中核にした信託型スキームを準備 2026年5月13日に発行方針を発表。2026年度内のJOC上での発行・流通を目指す 企業間決済、デジタル資産決済、JOCエコシステム 受託者、取扱業者、JOC外での流動性
Progmat Coin系 三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ信託銀行、Progmatなどによる共同発行・実証 2025年11月に金融庁FinTech実証実験ハブの支援案件に採択。商用化時期は未公表 大企業決済、クロスボーダー、金融機関インフラ 共同発行の実務、利用者保護、銀行間の運用ルール、商用化タイミング

JPYCは「実際に動いている」ことが最大の強み

JPYCは、現時点で最も実用段階に近い日本円ステーブルコインです。JPYC社は2025年8月に資金移動業者として登録され、2025年10月に日本円ステーブルコイン「JPYC」と発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」を正式リリースしました。

2026年5月15日のJPYC EXアップデートでは、発行上限が従来の「1日あたり100万円」から「1回あたり100万円」に変更されました。同時にKaiaチェーンにも対応し、既存のAvalanche、Ethereum、Polygonと合わせてマルチチェーン展開が進んでいます。

さらに、2026年5月22日のJPYC社発表では、シリーズBで累計約50億円を調達したこと、2026年5月18日時点で口座開設数18,000件、累計発行額25億円、総取引高350億円超に達したことが示されました。もちろん、これは同社発表ベースの数字ですが、少なくとも「制度上は発行できる」段階から「利用実績を積み上げる」段階に入ったことは大きいです。

一方で、JPYCの弱点も明確です。資金移動業型であるため、企業間の大口決済や金融機関のトレジャリー用途では信託型に比べて制約が意識されます。つまりJPYCは、まず個人・アプリ・小口決済で面を取るプレイヤーと見るのが自然です。

信託型3陣営は「大口決済の本命」だが、未確定要素も多い

JPYSC、EJPY、Progmat Coin系の共通点は、信託型を軸にしていることです。信託型は、企業間決済やクロスボーダー送金、セキュリティトークンなどのトークン化資産決済で使いやすい設計になり得ます。

ただし、信託型だから必ず普及するわけではありません。利用者から見れば、重要なのは「どのウォレット・取引業者で買えるのか」「何円まで償還できるのか」「会計・税務・監査にどう乗せられるのか」「どの取引先が受け取ってくれるのか」です。

JPYSCはSBIグループの金融エコシステムとSBI VCトレードの流通導線を持つ点が強みです。EJPYはJapan Open Chainを決済インフラ化する狙いが明確です。Progmat Coin系は3メガバンクと大企業決済の文脈で最も金融インフラ色が強い。とはいえ、最終的な勝負はホワイトペーパーやチェーン性能だけではなく、販売網、償還網、既存金融の業務フローへの入り込み方で決まります。

2026年の制度改正も重要:外国信託型と仲介レイヤー

2026年5月には、金融庁から電子決済手段に関する制度更新も相次いで公表されています。

5月19日には、外国法に基づく信託の受益権について、日本の電子決済手段制度との同等性が確保されるものを電子決済手段として扱うための内閣府令等が公布されました。施行・適用は2026年6月1日予定です。

5月22日には、令和7年資金決済法改正に係る政令・内閣府令等も公布され、こちらも一部を除き2026年6月1日から施行・適用されます。電子決済手段等取引業者・暗号資産交換業者への資産国内保有命令、特定信託受益権の裏付け資産、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業など、ステーブルコインの流通実務に関わる論点が含まれています。

これは、日本円ステーブルコインだけでなく、海外発行の規制準拠型ステーブルコインを日本でどう扱うか、また誰が利用者との接点を持つかという話でもあります。つまり、2026年以降の競争は「発行体」だけではなく「取扱業者」「仲介業者」「ウォレット」「会計・決済SaaS」まで含んだエコシステム競争になります。

DCJPYはステーブルコインではなくトークン化預金

日本円のデジタルマネーという文脈では、DCJPYもよく名前が出ます。ただし、DCJPYはステーブルコインではありません。銀行預金をブロックチェーン上で扱えるようにした「トークン化預金」です。

ディーカレットDCP、GMOあおぞらネット銀行、IIJは2024年8月、DCJPYネットワーク上で環境価値のデジタルアセット化とDCJPY決済取引を開始したと発表しています。また、ゆうちょ銀行は2025年9月、ディーカレットDCPのプラットフォームを利用し、2026年度中を目途にトークン化預金の取扱開始を検討すると発表しました。

ステーブルコインは「電子決済手段」として発行されるデジタルマネーであり、パブリックチェーン上での流通や外部アプリ連携が焦点になります。DCJPYは銀行預金を土台にした仕組みで、預金保険や銀行口座との関係が重要になります。どちらが優れているというより、使う場所が違います。

項目 日本円ステーブルコイン DCJPYなどのトークン化預金
法的な土台 資金決済法上の電子決済手段 銀行預金をトークン化
主な発行者 資金移動業者、信託銀行など 銀行
強み 外部アプリやパブリックチェーンとの接続性 銀行預金としての安心感、既存金融との整合性
主な用途 Web3決済、企業間決済、クロスボーダー、トークン化資産決済 銀行口座を前提とするB2B決済、証券・NFT等に連動する決済

どれが勝つのか:判断軸は5つ

日本円ステーブルコイン市場は、名前の数だけ見ると混雑しているように見えます。しかし、最終的に重要なのは次の5つです。

  1. 流動性:利用者が十分な量を安く買えて、必要なときに円へ戻せるか。
  2. 流通導線:電子決済手段等取引業者、ウォレット、銀行口座、法人決済SaaSとつながるか。
  3. 対応チェーン:利用したいアプリや取引先がいるチェーンで使えるか。ブリッジ依存が高いとUXとリスクが悪化します。
  4. コンプライアンス:KYC/AML、トラベルルール、凍結・償還停止、監査対応を実務として回せるか。
  5. 実需:投機ではなく、請求書払い、越境決済、デジタル証券決済、EC、店舗決済などの反復利用があるか。

この観点で見ると、JPYCは利用実績とマルチチェーン展開で先行しています。JPYSCはSBIの流通力と信託型の大口決済適性が強みです。EJPYはJOCの実需トランザクションを増やせるかが鍵です。Progmat Coin系は商用化すれば金融機関・大企業領域で強力ですが、共同発行の実務と導入スピードが焦点になります。

まとめ:発行レースから、利用される導線のレースへ

2025年のJPYC正式発行によって、日本円ステーブルコインは「構想」から「実装」に移りました。2026年はそこに信託型が加わり、企業間決済・クロスボーダー・トークン化資産決済の領域で競争が始まる年です。

ただし、ステーブルコインは発行しただけでは使われません。利用者が迷わず入手でき、送れて、受け取れて、償還でき、会計処理できるところまで整って初めてインフラになります。

日本円ステーブルコインの勝者は、最もきれいな技術仕様を持つプロジェクトではなく、円の出入り口、金融機関との接続、利用シーン、規制対応をまとめて押さえたプレイヤーになるはずです。

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